三月ひなのつき 新版 折りびな 折り紙のおひな様

折りびな
折りびな

2019年は2月4日が立春。地方によっても異なるが、ひな人形を飾るのは立春以降というのが一般的なようだ。

ひな祭りといえば、子供の頃読んだ、「三月ひなのつき」という本が印象に残っている。

三月ひなのつき 石井桃子 作 浅倉摂 絵 福音館書店 1963年

三月ひなのつき あらすじ

よし子は、10歳になっても自分のおひなさまを持っていない。父が亡くなり経済的に余裕がないからだけではない。おかあさんは、空襲で焼けてしまった自分の木彫りのおひなさま「寧楽びな(ならびな)」の一式が忘れられず、よし子のための素晴らしいおひなさまを見つけられずにいるのだ。学校帰りに三光ストアで見たおひなさまの話をしてもとりあってくれないおかあさんに、よし子はこらえきれなくなり、おひなさまが欲しい自分の気持ちをぶつけてしまう。次の土曜に二人で新宿のデパートへひな飾りを見に行くが、よし子は、おひなさまがたくさんありすぎて、また、おかあさんが自分以上に一所懸命なことに気づいて、一つを選ぶことができない。母はよし子に「本当によいものを」与えたい気持ちを話し、よし子もその気持ちを受け止める。その後、いよいよ迎えたひな祭りの日。帰宅したよしこを迎えたのは・・・

私自身は、母方の祖母が買ってくれたおひなさまを持っていたが、これがなかったらと思うと、自分のおひなさまがなくて悲しい思いをしているよし子の気持ちもよくわかった。特別なものでなくてよいから、華やかな五段飾りや七段飾りにあこがれる気持ちもよくわかった。

それでも子供なりに、本当によい物を娘に与えたいというおかあさんの気持ちも分かる気がした。「おかあさん」のエゴや思い入れの押しつけだという面はたしかにあるだろう。しかし、自分のひな飾りが、祖母や作った人形職人の気持ちのこもった作品であったとき、娘に大量生産品のようなひな飾りを与えて満足するかというと、それをよしとしない美意識や娘への愛情というのも理解できるような気がするのだ。個人的には、木彫りのひなや木目込み人形のおひなさまよりも、布の十二単を着たおひなさまの方が好きだ。しかし、丁寧に作られた木彫りのおひなさまや道具のぬくもりや親しみは、また別のよさがあり愛着をはぐくむものだと思う。

「三月ひなのつき」で、おかあさんが用意したおひなさまは、同窓会で会った友人から折り方を教えてもらい、心をこめて折った折りびなであった。この折りびなの挿絵も素敵で、折りびなのおひなさまも欲しくなったものだ。よし子が、もう買わなくても、この紙のおひなさまでいいというのも分かるような気がした。

この本の中で、よし子は、自分のおひなさまが欲しいのだという気持ちをおかあさんに言うことができたし、おかあさんも、失った物への執着により娘に辛い思いをさせていたことに気づき、よし子のために真剣に新しいおひなさまを選び始める。選び方はまだまだおかあさん主導であるが、よし子もおかあさんと心を開いた話ができるようになり、自分のおひなさまを得たことで、落ち着いた心で自分の好みも育てていけるのではないかという気がする。

新版 折りびな

「三月ひなのつき」の折りびながずっと気になっていたところ、数年前に、ふと思いついて、おひなさまの折り方の本がないかとインターネットで検索してみた。すると、まさにこれだという折り方の本を見つけたのだ。

新版 折りびな 田中サタ 著 真田ふさえ 三水比文 協力 福音館書店 2012年

「三月ひなのつき」の挿絵そのものの折りびなの写真を見たとき、「あっ」と思った。迷わず購入して、届いた本を開いたときにはちょっと興奮した。

前書きや後書きには、「三月ひなのつき」の作者が友人から和紙で折られたおひなさまの一式を贈られて、ちょうど書き上げた「三月ひなのつき」の挿絵にしようと考えたことや、その後「折りびな」の本が出版されたこと、「折りびな」の本が一時自費出版に切り替わり、著者が亡くなった後2012年に福音館書店から再版された経緯が書かれている。

子供の頃「三月ひなのつき」を読んだときには、既にこの「折りびな」の初版は出版されていたということになるが、こんな本があることは全然知らなかった。近くの書店に並んでいないような本や、書名も分からないような本は、ないのと同じようなものだったのだ。今は便利な世の中だとつくづく思うとともに、「折りびな」が再版となったことを喜んでいる。

折ってみた感想 切り込みの寸法に注意

「折りびな」の本を買ってから大事に保管していたのだが、最近になって折ってみた。100円ショップで買った千代紙風の折り紙と、一般的な15㎝四方の折り紙を使った。本当はパステル調の色合いでない方がよかったし、上下の向きのない柄の方がよかったのだが、和風の柄の折り紙はなかなか気に入ったものがない。また、セットの千代紙は1柄につき1枚だったりして、三人官女や五人囃子には足りないのも困る。

折り方を見て慎重に折った。切り込みを入れるところも多く、何枚も重ねて折るところもあり、きれいに折るのに結構気を遣う。また、切り込みの入れ方について基本的には、3/4とか1/3などの割合で指示されているが、頭を通す部分はミリメートルで寸法を書いてある。しかし、作者は男びな女びなは9.5㎝四方の、三人官女・五人囃子は8.2㎝四方と小さめの紙で折っているので、15㎝四方の折り紙など大きな紙で折るときには、頭を通す部分の切り込みの寸法は比例して長くする必要がある。最初、頭を通すための切り込みを寸法どおりに切り、後から切り込みを広げたら少し汚くなってしまった。

それでも、出来上がったおひなさまには、大満足である。三人官女や五人囃子も折りたいのだが、合った柄の折り紙がなく、探し中である。

私が買った「新版 折びな」には、本の中で使われている折り紙が付録で付いていたが、もったいないのでまだ使っていない。また、付録の小さな紙できれいに作るには、15㎝の四方の折り紙で少し練習してからの方がよさそうだ。

寧楽びな 奈良一刀彫りのおひなさま

「三月ひなのつき」で、おかあさんが持っていた「寧楽びな」も気になって検索してみた。

どうやら、奈良一刀彫りのおひなさまのことで、今も、奈良一刀彫りの作家がおひなさまを作っている。お顔の表情や着物の模様や色合いは、何となく現代的な雰囲気である。

寸法は小さな物から少し大きな物まであり、「三月ひなのつき」の挿絵にあるような引き戸のついた箱の上に飾り、その箱の中に仕舞えるようになっている。

転勤が多いような家では、本当にこんなおひなさまもよいかもしれない。

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