ディック・フランシスの「競馬シリーズ」の一冊。
競馬には特に興味もなかったので「競馬シリーズ」は、長い間読まずにいた。ところが、あるとき、たまたま、図書館の「ご自由にどうぞ」の無料本コーナーにあった「骨折」を読んでみたら面白くて、シリーズを全部読んだ。「競馬シリーズ」などと呼ばれていなかったら、もっと早く読んだと思う。
「黄金」は、シリーズ26冊目。アガサ・クリスティーの「ねじれた家」を再読していて、何となく似ている気がして、再読。
黄金 ディック・フランシス 菊池光訳 ハヤカワ書房 1993 原題 HOT MONEY 1987
あらすじ
家族 財産 愛憎
マルカムも、「ねじれた家」の家長、アリスタイドと同様、大金持ちである。しかし、それだけならありふれた設定であり、類似点というほどではない。
「ねじれた家」では、殺されたアリスタイドの息子たちが父に認められたい、失望されたくないと感じつつ、父のそばから離れられず、鬱屈した生活を送っていた。「黄金」でも、マルカムの子供たちは、それぞれ問題を抱えており、マルカムの財産に執着して、異母兄弟たちに不審の念を抱いている。
また、「ねじれた家」のアリスタイドは、孫の一人であるソフィアを後継者に指名するのだが、「黄金」のマルカムも、子供たちの中で唯一イアンを信頼し、ボディガードになってもらう。「ねじれた家」も「黄金」も、財産をめぐる諍いの底には、アリスタイドやマルカムに認められたい、愛情を受けたい、という葛藤もあったというあたりが、ミステリーの筋立てに厚みを持たせていると感じた。
その他の作品も
父子関係が興味深く描かれているのは、ディック・フランシスのシリーズでは「黄金」だけではなく、「度胸」、「骨折」、「騎乗」などいくつもある。義理の父や亡くなった父との関係が主人公に影響を与えている作品も含めると、もっとあるだろう。
クリスティーにも、「ねじれた家」のアリスタイドよりも、もっとゆがんだ形で一家を支配する裕福な義理の母と子供たちの関係が描かれた「死との約束」や、古代エジプトを舞台にした「死が最後にやってくる」などがある。
若い頃は、ミステリーのトリックや隠された動機、探偵の謎解きの部分が面白かった。ただ、トリックや動機があまりにも特徴的だったり意外だったりすると、印象に残りすぎてもう一度読む気があまりしない。
そういう点では、アガサ・クリスティーの多くの作品はトリックよりもストーリーや人間関係の面白さを感じるものも多いし、ディック・フランシスのシリーズは、主人公の仕事や人間性なども興味深いので、読み返すことも多い。
「黄金」も、お勧めの一冊である。