バラを育てるようになってから、本の中でバラが出てくると、どんなバラか気になるようになった。以前読んだ本でも、バラが重要な要素として出てきた本を思い返してみたりしている。
ミステリ系の本で、娘が失踪した話でバラの植え込みが出てきたりするものがあったのでは、とおぼろげな記憶をたぐりよせて、これかなと思ったミステリを再読。そうそう、この本だった。
薔薇の輪 A RING OF ROSES クリスチアナ・ブランド 1977
創元推理文庫 2015年
クリスチアナ・ブランドは、翻訳が出ているものは大体読んでいる。本格派の一人とされており、わりと大胆なトリックで、どこか浮き世離れしたような、独特の雰囲気があると思う。
薔薇の輪 あらすじ
ロンドンの女優エステラには、離れて暮らす体の不自由な娘ドロレスがいる。エステラとドロレスとの交流は、「スウィートハート日記」として新聞の人気連載エッセイとなっており、そのおかげで、エステラも人気女優として活躍している。この生活がそのまま続くかと思ったある日、ドロレスの父、アルがアメリカの刑務所を出所し、娘に会いに来た。ところが、ドロレスは失踪し、アルの相棒は何者かに銃で撃たれて死に、アルも心臓発作で死んでしまう。ドロレスの行方は? アルの相棒を撃ったのは誰?・・・
表紙を見て冒頭を読み始めると、結末も含め、何となく記憶がよみがえってきた。
しかし、今回の再読の目的はバラなので、バラに着目して読んでいく。
エステラの娘ドロレスは、世間には「スウィートハート」の愛称で有名である。それにちなんで、ドロレスの住まいの庭にはスウィートハートローズというバラを円形に植えた花壇がある。スウィートハートローズはピンク色のバラで、そのピンク色は、ドロレスのイメージカラーとされており、エステラの宣伝にもさかんに利用されている。ほかにも、人形や子供服やドレスなど、スウィートハートに便乗した商品も売られるようになり、エステラやその関係者の収入源にもなっている。
この小説の中では、エステラとスウィートハートの人気により、スウィートハート・ローズを植える人が増え、あちこちで咲いているという描写がある。また、終盤では、スウィートハートローズの植え込みが解決に至るきっかけの一つになっている。「薔薇の輪」というタイトルのゆえんでもある。
セシル・ブリュネ
さて、スウィートハート・ローズとは、どんなバラだろうか。文中の描写から。
猫の額ほどの前庭には、九月の花盛りを迎えたスウィートハート・ローズが咲き乱れ、金色がかったピンクの花々が甘い香りをふり撒いていた。
「スウィートハート・ローズ」や「スウィートハート バラ」で検索しても、違う商品やミニバラの「スウィートハート・メモリー」がヒットしたりして、うまくいかない。架空のバラだろうか、ピンクのバラは多いのでそれらしいバラを探すのが大変そうだと思っていたら、何のことはない、小説の終盤でスウィートハートローズの本来の名が言及されていた。
じつのところ、あの花は”スウィートハート・ローズ”という名前ではなく、ブラナー・・・〈セシル・ブラナー〉とかいうのが正式の名称だ。
セシル・ブリュネ Cecile Brunner 1880 フランス
淡い桃色の四季咲き、優しい雰囲気の、殿堂入りのオールド・ローズである。殿堂入りのバラというのは、3年に一度開かれる世界バラ会連合会議において選ばれるバラの名花である。「ピース」、「ピエール・ドゥ・ロンサール」などのモダン・ローズが有名だが、オールド・ローズからも「歴史的あるいは系統的に重要なバラで、長年にわたって人気があったバラ」として、今年2018年開催の会議まで12品種が選ばれている。
世界バラ会連合公式サイト 殿堂入りのバラ(オールド・ローズ)の紹介はこちら
神奈川県川崎市の生田緑地ばら苑には、殿堂入りのオールド・ローズ11品種が植えられており、セシル・ブリュネも見ることができる。長野県中野市の一本木公園にも植えられているようだ。
生田緑地ばら苑の公式サイトはこちら 秋の公開期間:2018年10月11日(木)~11月4日(日)