大晦日の物語 末ながく幸福に とびらをあけるメアリー・ポピンズ

アライグマのぬいぐるみ
アライグマのぬいぐるみ

2018年ももうすぐ大晦日。小学生くらいのころ、大晦日だけは除夜の鐘がなる頃まで起きていてよかったのだが、眠いのを我慢しながら、特別な日だという楽しい気分を味わっていたのを思い出す。

先月、11月5日のガイフォークスデイにちなんで、「とびらをあけるメアリー・ポピンズ」を再読したのだが、この本には、大晦日の物語もある。7話目の「末ながく幸福に」だ。

11月5日の記事はこちら

メアリー・ポピンズは、P.L.トラヴァースの書いた一連の児童文学に登場するナニーの名前である。ナニーは、20世紀初頭頃までイギリスの中上流家庭で子供の養育やしつけなどを担当していた家事使用人で、現代では、執事と同様、富裕層を対象としたサービスをする専門職となっているようだ。

メアリー・ポピンズのシリーズには、「風にのってきたメアリー・ポピンズ」、「帰ってきたメアリー・ポピンズ」、「とびらをあけるメアリー・ポピンズ」、「公園のメアリー・ポピンズ」の4冊の本がある。これらは、メアリー・ポピンズの独特の性格や言動や、思いもよらない展開が気に入って、子供の頃の愛読書だった。

とびらをあけるメアリー・ポピンズ P.L.トラヴァース 作 林容吉 訳 岩波書店 1964

末ながく幸福に

大みそかの日に、夜中まで起きていようと思っていたジェインとマイケルだが、気がつくと町の鐘の音で目を覚ました。ビッグ・ベンが夜中の12時の鐘を打ち始めると、おもちゃ戸棚の上に並べてあった、青いアヒルや布製のサル、フランネルのゾウ、厚紙のブタが、動き出した。ジェインとマイケルが動物たちを追いかけると、公園には鉛の兵隊やロビンソン・クルーソー、ハンプティ・ダンプティや一角獣の姿が。しかも、一角獣はライオンと、赤ずきんちゃんはオオカミと、パンチはジュディと、ジャックは巨人と仲良く過ごしている。童謡や物語の中では仲が悪いのにと、不思議がるジェインとマイケルに、眠り姫が、古い年と新しい年の間のすきまには、あらゆるものが一つになり、末ながく幸福に暮らすのだと説明する。そこには、メアリー・ポピンズの姿もある。ビッグ・ベンの鐘が12回打ち終わると何もかもかき消え、ジェインとマイケルは通りをゆくクランペット売りの鐘の音で目を覚ます。

「フランネルのゾウ」のフランネルというのは厚地の起毛生地。「ハンプティ・ダンプティ」や「パンチとジュディ」はマザーグースの童謡に登場する。クランペットは、イギリスのパンケーキの一種。

ロンドンのビッグベンが毎日夜中も鐘をならすのかどうかは知らないが、鐘が12回鳴っている間という不思議な時空感覚や、近くの公園での非日常の雰囲気が好きな物語だった。

メアリー・ポピンズの物語では、大冒険というほどのことは起きない。しかし、何もかも作りこんだ架空の世界というのではなく、日常と非日常の行き来がさりげないところが好みである。

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とびらをあけるメアリー・ポピンズ (岩波少年文庫)

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