思い立って、クリスマスのコンサートに行ってきた。
サンクトペテルブルグ室内合奏団 クリスマス/アヴェ・マリア 2018。チケットは、4,500円。会場は東京オペラシティ コンサートホール。
コンサートホールのロビーには、假屋崎省吾氏プロデュースのクリスマスツリー。赤や緑のボールが飾り付けられたクリスマスツリーの左右には白樺もあしらわれており、森の雰囲気も感じられる。
クリスマスにアヴェ・マリア
サンクトペテルブルグ室内合奏団は、毎年、クリスマスの時期になるとアヴェ・マリアを中心としたプログラムで日本ツアーを行っているが、聴きに行ったのは初めてだ。
アヴェ・マリアは、バッハ/グノー、カッチーニ、シューベルトの3曲が歌われるので、アヴェ・マリアが好きな人には3曲全て聴けるよい機会かもしれない。
12月7日の東京、よみうり大手町ホールから始まり、25日の東京オペラシティコンサートホールまで、神戸、大阪、横浜、長野など各地で公演する。
サンクトペテルブルグ室内合奏団の本国やヨーロッパでの評価は知らない。しかし、コンサートマスターのイリヤ・ヨーフ(Ilya Loff)のソロの、派手さはないが高音の柔らかな音色や、アンサンブルの静謐な感じは、クリスマスの演目に合っていてとてもよかったと思う。
プログラムのアヴェマリア以外の曲は、おそらく毎年少し入れ替えるのだと思うが、今年2018年は、以下の曲目。
- ヘンデル 合奏協奏曲集 作品6-5 ニ長調 HWV.323より 第一楽章
- パッヘルベル 「3声のカノンとジーグニ長調(パッヘルベルのカノン)
- ヘンデル 歌劇「リナルド」より「私を泣かせてください」
- バッハ G線上のアリア(管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068より 第2曲エア)
- コレッリ 合奏協奏曲 作品6-8 クリスマス協奏曲より パストラーレ
- バッハ/グノー アヴェ・マリア(前奏曲第1番に付けられた宗教的歌曲)
- マスネ 歌劇「タイス」より「瞑想曲」(タイスの瞑想曲)
- カッチーニ アヴェ・マリア
- ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲「四季」より ヘ短調「冬」
- バッハ バイオリン協奏曲 第2番 ホ長調BWV1042より 第1楽章
- ボッケリーニ メヌエット(弦楽五重奏曲 ホ長調 G275 作品11(13)の5より 第3楽章)
- フォーレ 「レクイエム」より ピエ・イエス
- ボロディン 夜想曲(弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調より 第3楽章)
- サン=サーンス 「動物の謝肉祭」より 白鳥
- マスカーニ 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
- シューベルト アヴェ・マリア(エレンの歌 第3番 作品52-6 D.839)
- モーツァルト ハレルヤ(モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」K.165(158a)より)
意外な収穫 パッヘルベル 3声のカノンとジーグ
パッヘルベルといえば「3声のカノンとジーグ」のカノンが有名で、私も好きな曲だが、ジーグまでセットで聞いたことがなかった。プログラムにも「3声のカノンとジーグ」と書いてあったのだが、何となく「カノン」と思い込んでいたので、カノンの後、殆ど間をおかずジーグが始まったときには、ちょっと意表をつかれた。おそらくコンサートマスターも、「間を置くと曲が終わったと思われる」と考えたのか、すかさずという感じで始まったのだが、ジーグも聞くことができてよかったと思う。
前半のカノンも、コンサートマスターの弾く装飾音の入り方が普段聞くのとちょっと違っていて、新鮮だった。
パッヘルベルのカノンといえば
ちょっと話がずれるが、パッヘルベルのカノンといえば、個人的には、故ボフダン・ヴァルハルが率いていたスロヴァキア室内合奏団の90年代の来日公演の演奏が心に残っている。
最初は、サントリーホールでのコンサートの録画がNHKで放映されていたときにたまたま聴いたのだが、引き込まれて聴き入ってしまったのをよく覚えている。どこがどうよかったとうまく説明できないのだが、魂にしみいるような感じとでもいうか、森の中で演奏している楽団に光が差しているようなイメージが浮かんだのを覚えている。楽団のこともコンサートマスターのことも、そのときに知り、その後CDを探して聴くようになった。
コンサートマスターのボフダン・ヴァルハルは、2000年に70歳で亡くなられ、もう少し長生きしてほしかったと思ったが、1995年頃の来日公演のチケットを買うことができ聴きに行けたのは貴重な思い出である。
意外な収穫 ボロディンの夜想曲
クリスマスコンサートに話を戻す。
アレクサンドル・ボロディンといえば、歌劇イーゴリ公の中の曲、「だったん人の踊り」が有名で、私も好きな曲である。ミュージカルやジャズが好きな人は、「ストレンジャー・イン・パラダイス」として知っているかもしれない。
プログラムにあるボロディンの「夜想曲」(弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調より 第3楽章)はこれまで聴く機会がなくて知らなかったのだが、美しい曲で驚いた。調べてみると、かなり有名らしく、これまで知らずにいたのが悔やまれる。全楽章通しでも聴いてみたくなった。
モーツァルトのハレルヤ 踊れ、喜べ、幸いなる魂よ
子供の頃は、モーツァルトは交響曲40番が大好きで、声楽曲は全般にあまり好きではなかった(モーツァルトに限らず)。声楽は、特にソプラノは声質が好みでないと、我慢して聴く感じになるので苦手意識はまだ残っている。
今回は、オペラのような長丁場ではないので気楽に聴ける。アヴェ・マリアもまあよかったし、モーツァルトの「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」は、明るく美しい曲で、こういう室内楽編成だと歌とヴァイオリンの掛け合いの呼吸が合い、活き活きしていて楽しい。
東京オペラシティのコンサートホール
隣の新国立劇場では何度もバレエを見たことがあるが、東京オペラシティのコンサートホールは初めてだ。
今回の席は、舞台に向かって右側の2階バルコニー席、R1のエリア。一般には、左右偏った席よりも中央の席の方が音のバランスがよいとされているので、少し気になったが、チケットをとったのが遅く、バルコニーでないエリアでは一番後ろ辺りしか残っておらず、他にもあまりよい席が残っていなかったので、遠いよりは近くで見ようと思ったのだ。
個人的には、その席で大満足だった。
舞台の上を横から見下ろす席で、チェロ奏者は背中から見る形、コントラバスやハープは殆ど見えないが、他の奏者は指の動きも弓の動きもよく見えるし、コンサートマスターの表情も合図も本当によく見える。音も、響きのバランスは思ったよりもよくて、しかも、個々の楽器の音色もはっきり聴き分けられ、演奏に参加しているような錯覚さえ覚えるほどだ。
アンコールの plink, plank, plunk! では、客席にも手拍子を求められる場面もあり、久しぶりのコンサートは、とても楽しかった。記念にCDまで買ってしまった。