予告殺人 アガサ・クリスティー ミス・マープル

アガサ・クリスティー
アガサ・クリスティー

最近、アガサ・クリスティーを読み直しているのだが、今回は、共通点のある作品をいくつか紹介したい。どういう共通点かは、読んでのお楽しみ。どれか一つを読んだことがある人には、ネタバレになってしまうけれども。

予告殺人 原題 A MURDER IS ANNOUNCED

1950 アガサ・クリスティー

早川書房 クリスティー文庫 2003年

地方紙に掲載されていた、殺人お知らせの広告。それを読んだ住民は、変わった趣向のパーティーかと好奇心を抱いて、予告された日の夕方、リトル・パドックス邸に赴く。予告された時刻、午後6時30分になると電気が消え、若い男が銃で撃たれて死んだ。死んだ男が働いていたホテルに滞在していたミス・マープルは、不審な点を感じる。・・・

興味を惹く導入部から、ミス・マープルの登場、防げなかった第2、第3の殺人と、なかなか読ませる展開である。

作中で犯行の動機として考えられているのが、資産家の故ランダル・ゲドラーの遺産の行方である。遺産は、ランダル・ゲドラーの妻ベルの死後、ゲドラーの秘書であったレティシア・ブラックロックが継ぐこととされ、仮にベルよりもレティシアが先に死んだ場合には、ゲドラーの妹ソニアの子供たち、双子のピップとエンマが継ぐことと指定されている。病弱なベルはスコットランドで病床にある。リトル・パドックス邸の殺人は、レティシア・ブラックロックを狙ったものだったのか?

本筋とは関係ないのだが、双子のピップとエンマの名前の付け方のところが、以前読んだときも、最近読んでも、ぴんとこなかった。

「で、その子供たちの名前を知らせてきたんですか?」 ベルはまた微笑を浮かべた。「ちょうど正午に生まれたのでーーピップとエンマと呼ぶつもりだというのです。でも、冗談だったのかもしれませんわね、きっと。」

英辞郎によると、午後を表すPMを英語の古い表現で pip emma といったらしい。たしかに、冗談のような名付け方だ。

語源 第一次大戦の頃の英軍の通話表に従って、「午後」を表す略語PM(=post meridiem)を1文字ずつ読んだもの。(英辞郎)

通話表というのは、無線通信などでアルファベットの聞き間違いを防ぐために、AをAlpha、BをBravo、などと言い換える規則のことだ。条約等に基づく現行の通話表では、pには、Papa、mには、Mike の語が当てられている。ともあれ、名付けの由来が分かってすっきりした。

作中で、「甘美なる死(デリシャス・デス)」と呼ばれているチョコレートケーキのレシピも気になるところだ。

お相手役 原題 The Companion

短編集 MISS MARPLE AND THE THIRTEEN PROBLEMS 1932 所収

ミス・マープルと13の謎 創元推理文庫 1960

火曜クラブ ハヤカワ文庫 クリースティー文庫 2003

夕食会の客の一人が自分が体験した事件の話をし、他の客が謎解きをするという趣向の短編集。この短編集には、別記事で紹介した「青いジェラニウム」も収められている。

「青いジェラニウム」の記事はこちら

「お相手役」は、ロイド医師が何年も前に遭遇した事件の話。カナリー諸島のグランド・カナリー島に、英国女性が二人が到着した。どちらも40歳くらい、裕福なミス・バートンと、そのお相手役のミス・デュラン。翌日、海水浴中に一人が溺死し、その後、もう一人が自殺と思われる状況で姿を消した。夕食会の客はいろいろと推理を働かせるが、ミス・マープルはいとも簡単に謎解きをしてみせる。

ネタバレになるが、以下の引用部分は、「予告殺人」でも同じようなフレーズがある。

「あたしのいいたいのは、この問題のかなめは年をとった女なんてものは、お互いによく似ているという、そのことにあるんですわ」  (「お相手役」)

しかも、ミス・バートンの住所の屋敷の名前は「リトル・パドック」であり、「予告殺人」の舞台は「リトル・パドックス邸」! クリスティーは、短編で使ったアイディアを長編にも使ってみたというところか。もちろん、「予告殺人」にはいろいろなひねりが加えられ、単純な焼き直しとはなっていない。邸の名前の類似など、クリスティマニアには知られていることかもしれないが、自分でこういう部分に気づくとちょっと楽しい。

ちなみに、お相手役(コンパニオン)というのは、英国の小説では時々出てくるが、貴婦人や老婦人などの話し相手、雑用係のような役割で雇われる住み込みの女性のことである。貧富の差や人件費の安さや女性の職業の少なさなど、時代を感じさせる。

闇からの声 原題 The Voice in the Dark

短編集 THE MYSTERIOUS MR QUIN 1930 所収

クイン氏の事件簿 創元推理文庫 1971

謎のクィン氏 ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2004年

この短編集は、独特の雰囲気が好みで何度も読み返している。ハーリ・クイン氏という謎の人物が現れて、過去の事件や現在のトラブルに暗示や光明を与え、洞察力のある老紳士、サタースウェイト氏がその事件などを解決に導くというのが基本的なパターンである。クイン氏の関わりが濃いものも、殆ど登場しないものもある。

「闇からの声」は、この7番目の短編。レディ・ストランリーが変死し、その娘マージョリーも危険にさらされているのを、サタースウェイト氏が知る。クイン氏の暗示と励ましを得て、サタースウェイト氏は、マージョリーに会いに行き、真相に思い当たる。・・・・

短編「お相手役」と長編「予告殺人」は、どちらもミス・マープルものではっきりした類似点があるのに対し、「闇からの声」は、この2作とは展開も雰囲気も異なる作品となっている。

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予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


火曜クラブ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


謎のクィン氏 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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